作成年月:2024 年 10 月
2024年5月26日(日)、希少疾患である膿疱性乾癬(のうほうせいかんせん)について理解を深めるためのWeb市民公開講座『いっしょに学ぼう 膿疱性乾癬』が開催されました。
本講座では、日本医科大学大学院医学研究科 皮膚粘膜病態学分野 大学院教授の佐伯 秀久先生を座長に迎え、日本医科大学千葉北総病院 皮膚科 講師の萩野 哲平先生による『膿疱性乾癬ってどんな病気?』、NPO法人 東京乾癬の会P-PATの河﨑 玲子さんによる『膿疱性乾癬と私』の2つの講演の後、Q&Aセッションが行われました。
本記事では、当日の講演やQ&Aセッションの内容についてレポートします。
日本医科大学大学院
医学研究科
皮膚粘膜病態学分野
大学院教授
日本医科大学
千葉北総病院
皮膚科 講師
NPO法人 東京乾癬
の会P-PAT 会員
『膿疱性乾癬ってどんな病気?』萩野 哲平先生
●膿疱性乾癬とは
膿疱性乾癬は乾癬の一種で、発熱や体のだるさとともに、赤くなった皮膚に無菌性の膿疱(のうほう:うみをもった水ぶくれ)がたくさんできる病気です。「かんせん」という言葉の響きから、感染するのではないかと誤解されがちですが、細菌感染症ではないので他人にうつることはありません。
発疹や膿疱が体の一部に出る限局型の膿疱性乾癬と、全身に出る汎発型の膿疱性乾癬があり、汎発型は厚生労働省が定める指定難病となっています。汎発型の膿疱性乾癬は、英語のGeneralized Pustular Psoriasisの頭文字をとってGPPと呼ばれることもあります。
GPPはとてもまれな病気で、乾癬全体の約1%といわれており1) 、国内では約2000人の患者さんがいます(2020年現在)2) 。
●膿疱性乾癬の症状
膿疱性乾癬の症状は一般的な乾癬である尋常性乾癬とは異なります。尋常性乾癬は皮膚の症状を中心とした病気ですが、膿疱性乾癬は、赤い発疹(皮疹)、膿疱、灼熱感といった皮膚症状とともに、発熱や体のだるさ、むくみ、関節の痛みなどの全身症状があらわれることがあります。また、再発を繰り返すこともあるので、変化に気づいたら早めに医師に相談することが重要です。
●膿疱性乾癬の原因
膿疱性乾癬の発症原因については、まだよく分かっていないことも多いのですが、炎症性サイトカインという物質が関わっていると考えられています。サイトカインとは細胞間の情報伝達を担う物質のことで、そのなかでも炎症を引き起こすものを炎症性サイトカインといいます。炎症性サイトカインにはTNF-α、IL-17、IL-23、IL-36などがあり、膿疱性乾癬の発症にはIL-36が深く関わっていると考えられています。
感染症や妊娠、薬の影響で悪化するという報告もあります3) 。
●膿疱性乾癬の検査
膿疱性乾癬の診断のためには、皮膚の一部を採取して顕微鏡で調べる皮膚生検や、炎症の程度や合併症の有無などを確認する血液検査などを行います。国内の膿疱性乾癬患者さんを対象とした研究3) では、90%以上の患者さんが皮膚生検を受けていることがわかりました。
●膿疱性乾癬かも?と思ったら
『GPPひろば 』では、膿疱性乾癬の簡易的なチェックリストを公開しています。また、こちら からお近くの専門病院を検索することもできますので、ぜひご活用ください。
●膿疱性乾癬に合併しやすい病気
膿疱性乾癬の患者さんに多い合併症として、尋常性乾癬や関節炎があります。また、頻度は高くないものの、ぶどう膜炎という眼の病気を合併することもあります。いずれも重症化すると生活に支障が出るので、異常を感じたらすぐに受診しましょう。
●膿疱性乾癬の治療法
膿疱性乾癬の治療には、全身療法(内服療法、生物学的製剤、顆粒球単球吸着除去療法)、外用療法(ぬり薬)、光線療法があります。
●医療費補助制度
膿疱性乾癬の患者さんが利用できる医療費補助制度には、高額療養費制度、難病医療費助成制度、加入している健康保険組合によっては付加給付制度などがあります。重症度によって受けることができる助成制度が異なるので、主治医に相談してみましょう。
●日常生活の注意点
日常生活では、感染症、皮膚への刺激、ストレスなどの悪化要因を避けることが大切です。また、薬の使用や妊娠が再発・症状悪化につながることもあるので、他の病気の治療をする場合や妊娠を希望される場合には主治医に相談しましょう。
●患者さんと医師とのコミュニケーション(患者さん実態調査より)
国内の膿疱性乾癬の患者さんと皮膚科医を対象にしたWeb調査4) の結果から、患者さんと医師の間で考え方や認識に違いがある場合や、患者さんが悩みを医師に十分に相談できていないことがあると分かりました。
調査の結果によると、最終的に期待する/目指す皮膚の状態について、「完全に綺麗な皮膚」と回答した患者さんは56%だったのに対して医師では41%にとどまっており、患者さんと医師とで最終的に目指している症状改善の程度が異なっている可能性が示唆されています。
患者さんにとって満足のいく治療を行うためには、患者さんと医師の意見が一致していることが大切です。私たち医師は、患者さんに納得して治療を受けていただき、また悩みを少しでも減らしていただきたいと考えておりますので、何か気になることや悩みがあれば、遠慮せずに相談していただければと思います。
まとめ
早期診断と治療
膿疱性乾癬は早期発見と治療が重要です。気になる症状があればためらわず、皮膚科専門医を受診しましょう。
積極的なコミュニケーション
些細なことでも遠慮をせずに医師や看護師に相談しましょう。
最新情報の収集
新しい治療法の研究が日々進んでいます。医師や看護師さんから情報を得て、適切な治療を受けましょう。
家族や友人のサポート
家族や友人のサポートは治療の一助となります。身近な人と情報を共有し、サポートを受けましょう。
皮膚症状で困っている患者さんがいらっしゃいましたらぜひ当施設も含めて、お近くの病院の先生、かかりつけの先生に悩みを相談していただければと思います。
『膿疱性乾癬と私』 河﨑 玲子さん
●症状のはじまり
皮疹が出始めたのは、2021年のことでした。だんだんと皮疹が広がり、地域の総合病院で検査を受けた結果、「再発性環状紅斑様乾癬」と診断され、膿疱性乾癬の軽症と説明を受けたため、それほど深刻なものだとは思っていませんでした。その後インターネットなどで検索するうちに不安が募ってきましたが、極力深刻に思わないように努めました。
●症状の悪化
光線療法、飲み薬、塗り薬による治療を始め、当初は効果が得られていたものの、次第に全身の紅斑と膿疱、発熱、痛み、むくみが出るなど、症状が悪化し始めました。そして診断名が膿疱性乾癬に変わりました。
全身に皮疹が出るようになると、薬を塗るのに20分以上かかり、塗った後はベタベタで衣服が体に張り付いてしまう状況でした。頭にも皮疹があったので、長い間美容院にも行けませんでしたし、衣服が触れるところは皮疹が出るため、衣服でこすれないように柔らかい綿素材の大きめサイズの服しか着られませんでした。人目が気になり、「見られたくない、隠したい」といつも思っていて、外出する気持ちにはなれませんでした。皮膚が焦げるような灼熱感や痛みにも悩みました。やけどのようにジリジリと痛く、炎症で熱をもっていたので保冷剤を当てていました。痛みで眠れない、ベッドに敷いた保冷剤を夜中に何回も替えなければいけないこともあり、睡眠不足に陥りました。
また、鱗屑(りんせつ)や落屑(らくせつ)にも苦しみました。着ていた衣服に付着した剥がれた皮を集めると手のひらいっぱいくらいになりました。剥がれた皮が自宅のいたるところに落ちてしまっている状態だったので、よその家に上がることにはとても抵抗があり、できませんでした。気分が落ち込み、QOL(生活の質)が下がり、絶望さえ感じていました。
●新たな治療の開始から現在まで
2022年の1月から生物学的製剤の皮下注射を始めました。半年ぐらいで上半身の皮疹が消え、下半身の皮疹も消えていきました。現在は3か月ごとの受診を継続して、以前と変わらない生活を送ることができています。症状がひどかった頃には、このような日が来るとは想像できませんでした。
●治療を続ける上での、気持ちの支え
主治医の先生
主治医の先生は「今はいい薬がたくさんあるから大丈夫」といつも明るく話しかけてくださり、前向きな気持ちになれました。治療効果が出たときも一緒に喜んでくださいました。
趣味・友人
つらいときに没頭できる趣味があると救われます。私の場合は書道でした。書道サークルの友人の気遣いや励ましもありがたかったです。
家族
通院の送り迎えや、 家事の手伝いをしてくれました。つらいときに弱音を言える妹にも助けられました。
●日常での注意・工夫
日常生活では、ストレスをためないこと、規則正しい生活をすること、感染症対策をしっかりすることを心がけています。また、肌触りのよい服を選び、無添加の化粧品を選ぶなど、スキンケアにも気を付けています。
さいごに
同じ病気をもつ方へ
膿疱性乾癬はまれな病気なので、どうしても孤独感や不安感がつきまといます。そのようなとき、同じ病気の方々とつながることが治療への大きな力になります。もし一人ぼっちだと感じることがあれば、患者会などをのぞいてみるのもよいと思います。
周囲の方へ
膿疱性乾癬は「うつる病気」と誤解されがちです。患者は周りに不快感を与えていないかといつも心配になり、皮疹を隠してしまいます。一人でも多くの方に、うつらない病気だと理解していただけたらありがたいと思います。
自分も膿疱性乾癬なのかもと不安に思っている方へ
一人で悩まずに、早めに専門医を受診することをおすすめします。あきらめないでほしいとお伝えしたいです。私自身も再発の不安に襲われることもありますが、医療を信じ、そのときそのときで自分に一番合った治療法を、主治医の先生と相談しながら選択していきたいと思っております。
『Q&Aセッション』
Q.1 近年、関節炎が進行してきたこともあり病気をオープンにして転職活動中ですが、仕事が決まりません。職場には病気のことについてどのように伝えていますか?
また、職場の方へ負担にならないよう心がけていることはありますか?
A.1
河﨑さん
私自身は仕事をしておりませんので、患者会で事前に聞いた内容をお伝えしますと「職場での配慮を求めるのであれば、上司に病気の性質や病状、治療についてしっかり伝えることが大切です。休まなくてはならない場合に備えて、同僚がフォローしやすいように業務内容を書類にまとめておくのもよいでしょう。体調管理と治療を継続して症状をコントロールしていくこと、そして調子が良くないときは無理をしないことが重要だと思います」とのことでした。
佐伯先生
関節炎の症状で悩んでいる患者さんは多いと思います。最近は非常に効果の高い治療薬も出ているので、主治医の先生に相談して検討してみるとよいと思います。
Q.2 今は生物学的製剤で症状は落ち着いていますが、いつまた症状が出てくるか不安です。 悪化を防ぐために何かできることはありますか?
A.2
萩野先生
有効性が高い治療薬のおかげで、再発する頻度は一昔前と比べてもかなり減ってきています。ストレスを溜め込まないこと、規則正しい生活をすること、そして、気になる症状があれば主治医の先生にすぐに相談していただくことが重要です。
また、『GPPひろば』から患者さん向けのアプリがダウンロードできますので、こうしたツールを活用し、症状の経過を記録したり、同じ症状の患者さんと情報を共有したりすることで、再発した場合に早く対応できるようになるのではないかと思います。
河﨑さん
私も再発の不安が絶えずあります。でも先のことは分からないので、まずは指示された治療を継続すること、心身ともに無理をしすぎないようにすること、自分の症状に変化がないかどうかをこまめにチェックすることを心がけています。
Q.3 手に痛みがあります。皮膚科の先生に相談してもよいのでしょうか?
A.3
萩野先生
膿疱性乾癬ではいろいろな合併症がみられることがあります。一見関係なさそうでも実は合併症だったということもありますし、もし関係なかったとしても、それもまた重要な情報ですから、どんな症状でも迷わず主治医の先生に相談してください。
佐伯先生
乾癬あるいは膿疱性乾癬では、関節炎を伴うことは珍しくありません。医師も診察するときに定期的に聞くようにしていますが、遠慮せずに主治医の先生に相談するとよいと思います。
Q.4 気持ちが沈んで、何もやる気が起こらない、疲れて休憩しないと動けないことがよくあるのですが、何か工夫できることはありますか?
A.4
河﨑さん
私も呼吸だけをしているような状態のときもありました。そういうときは無理せず休憩をとります。そして「今日はちょっと動けそうだな」という日は、好きなことをすると、ストレスもいくぶん緩和されます。また誰かと悩みを共有できると力が出るように思います。
佐伯先生
乾癬患者さんの会が全国にあるので、参加されて情報交換されるのもよいでしょう。
Q.5 妊娠・出産がきっかけで発症したと医師から言われましたが、そういう人は多いのでしょうか?
A.5
萩野先生
膿疱性乾癬のうち4%程度は、妊娠などがきっかけで発症するといわれています3)。妊娠している場合はそのことを主治医に伝えましょう。
Q.6 先生はいつも忙しそうなので、申し訳なくて相談しづらいです。いろいろ聞いてもよいのでしょうか?
A.6
萩野先生
診断や治療法を決定するうえで、患者さんの声はとても大切です。どんどん質問していただければと思います。
河﨑さん
質問ができないまま家に帰ると、それがまたストレスになってしまいます。患者は遠慮しがちですが、先生は短い時間のなかでも必ず答えてくださると思います。私は、要領よく質問できるように質問に優先順位をつけて、メモに書いて持って行くなどして工夫しています。
佐伯先生
内容によっては医師だけでなく看護師さんやメディカルスタッフの方に相談するのもよいかもしれませんね。