作成年月:2024 年 4 月
膿疱性乾癬(GPP)ってどんな病気?
GPPとは膿疱性乾癬(汎発型)の英語の病名であるGeneralized Pustular Psoriasisの頭文字をとった略語です。
膿疱性乾癬は、乾癬という皮膚の病気のうち、発熱や倦怠感、皮膚の潮紅とともに無菌性の膿疱(うみを持った水疱)がたくさんあらわれるタイプの乾癬で1)2)、限局型(発疹・膿疱が身体の一部に出ている状態)と汎発型(発疹・膿疱が全身に広がっている状態)に分類されます。GPPは難治性であることや治療に急を要することなどから、厚生労働省が定める指定難病に指定されています2)。
GPPは乾癬の一種に分類されていますが、最も一般的な乾癬の種類である尋常性乾癬とは症状や発症に至る体内のプロセスがことなります。ここではそのようなGPPについて詳しくご紹介します。
写真提供:森田 明理 先生(名古屋市立大学大学院医学研究科 加齢・環境皮膚科学 教授)、
大熊慶湖, 池田志斈: ここまでわかった乾癬の病態と治療. p.94 中山書店, 2012より
写真提供:大熊 慶湖 先生(医療法人社団 和山会 八王子駅前皮膚科)、
土橋人士: 乾癬・掌蹠膿疱症 病態の理解と治療最前線. p.285, 中山書店, 2020より
写真提供:土橋 人士 先生(順天堂大学医学部・大学院医学研究科 皮膚科学講座 准教授)
小宮根真弓, ほか. 困ったときに役立つSTEP UP乾癬診療. 東京: メディカルレビュー社; 2019. より作成
患者数や性差、発症年齢は?
GPPはとてもまれな病気です。日本の乾癬患者さんの数は人口の約0.3~0.4%、約43万~56万人と推計されていますが3)4)、GPPはこのうちの約0.33~2.3%、教科書的には「乾癬全体の約1%」といわれています5)。
指定難病であるGPPは医療費の受給対象となりますが、2020年におけるGPPの特定医療費を受給している患者さんは全国で2,058人です6)。近年は、毎年約80人の患者さんが新規に受給しています。
図 乾癬の5つの病型と割合
- 目的 :2002~2008年までの日本人の乾癬に関する疫学的分析を明らかにする。
- 対象 :期間中、日本乾癬学会に登録された乾癬患者11,631人(男性66.5%、女性33.5%)
- 方法 :年齢、性別、乾癬の種類、重症度、罹患している体表面積、合併症などについて調査を行った。
Takahashi H, et al. J Dermatol. 2011; 38: 1125-9.より作成
表 GPPの特定医療費(指定難病)受給者証保持者数の推移
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年 | 2015 | 2016 | 2017 | 2018 | 2019 | 2020 |
受給者数 (人) | 2,034 | 2,072 | 1,788 | 1,828 | 1,910 | 2,058 |
難病情報センター.特定医療費(指定難病)受給者証所持者数より作成
https://www.nanbyou.or.jp/entry/5354.
日本におけるGPPの男女比は1.0:1.2と女性にやや多くみられますが、性別にかかわらず発症しうる病気といえます7)。発症年齢の分布は男性では40代と60代、女性では20代にピークがありますが、全年齢層に分布しています8)。
膿疱性乾癬(GPP)ではどのような症状があらわれる?
GPPの症状は炎症が強く、皮膚だけではなく全身にみられるという点が尋常性乾癬と異なります。
GPPはいくつかの種類に分類されますが、典型例としては急性汎発性膿疱性乾癬(von Zumbusch[フォンツンブッシュ]型)があげられます1)7)。
急性汎発性膿疱性乾癬では、最初は灼熱感とともに全身の皮膚の赤み(紅斑;こうはん)があらわれ、多くの患者さんではこの時に悪寒を感じ高熱が出ます。また、全身のむくみや関節の痛みがあらわれることもあります。その後、紅斑の上にたくさんの膿疱があらわれます。この膿疱は白血球が集まったものですが、細菌感染が原因のものではない(無菌性膿疱といいます)ので他人にうつることはありません2)。
このようなGPPの急性症状(フレアとも呼ばれます)があらわれる前に、患者さんによっては尋常性乾癬の症状がみられている場合もあり、日本のGPP患者さんの69.8%に、尋常性乾癬か乾癬に関連する合併症があったと報告されています9)。
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図 GPPの臨床症状
- 目的 :日本における小児汎発性膿疱性乾癬(GPP)の疫学を調査する。
- 対象 :42施設58例の尋常性乾癬を先行しない小児GPP患者
- 方法 :調査票を送付し、発症頻度、誘発因子・悪化因子、症状などを検討した。
安田秀美, ほか. 日皮会誌. 1994; 104: 759-66.より作成
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図 GPP患者さんが合併している尋常性乾癬/乾癬に関連する合併症
- 目的 :日本の実臨床下での膿疱性乾癬(GPP)患者におけるフレアの頻度、重症度、臨床的特徴、治療状況などについて評価する。
- 対象 :全国の29施設において過去10年間にGPPと診断された205例(男性106例、女性99例)
- 方法 :2006年日本皮膚科学会診断基準に基づきGPPと診断された患者のカルテを一次資料、厚生労働省に毎年提出される臨床調査報告書を二次資料として、患者背景、病歴、治療、臨床検査値、フレア歴などを抽出した。
Morita A, et al. JEADV Clinical Practice. 2023. Epub ahead of print. より作成
本論文の著者にベーリンガーインゲルハイム社の社員が含まれています。
また、GPPには、いったん症状が治まっても、症状の悪化が繰り返しあらわれるという特徴があります。日本での調査によると、GPPの診断時にフレア※が起こっていた患者さんは86.3%で、診断後に最長で10年間経過を追ったところ、34.1%の方がフレアを経験していました。GPPと診断を受けてから1年以内にフレアを経験した方がもっとも多いですが、なかには診断を受けて数年後にフレアがあらわれた方もいます9)。 フレアを引き起こしたり、症状を悪化させたりする要因としては、感染症、妊娠、ストレスなどがあげられます9)。気になる症状や変化があったときには、すぐに医師に相談することが大切です。
この調査では、専門家による委員会で膿疱性乾癬による皮膚症状または全身症状があり、かつ症状の悪化や継続がみとめられると判断されたものを指します。
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図 GPPの誘発因子・悪化因子
- 目的 :日本における小児汎発性膿疱性乾癬(GPP)の疫学を調査する。
- 対象 :42施設58例の尋常性乾癬を先行しない小児GPP患者
- 方法 :調査票を送付し、発症頻度、誘発因子・悪化因子、症状などを検討した。
安田秀美, ほか. 日皮会誌. 1994; 104: 759-66.より作成
膿疱性乾癬(GPP)があるとかかりやすい病気は?
GPP患者さんに併発しやすい(かかりやすい)病気として、関節炎とぶどう膜炎があげられます。
関節炎
GPP患者さんの約30%の方に関節の痛みなどの関節炎の症状がみられると報告されています10)11)。関節炎は進行すると関節が変形し、生活に支障をきたすこともあるため、早期に適切な治療を受けることが大切です。また、関節炎が長い間続いた患者さんでは、まれにアミロイドと呼ばれる繊維状のたんぱく質が胃腸や腎臓、心臓に沈着することで、胃腸障害や腎不全、心不全を発症することがあります7)。
ぶどう膜炎
ぶどう膜炎とは眼のなかに炎症を起こす病気の総称です。ぶどう膜炎の併発頻度は高くないものの、乾癬患者さんでは一般の人よりもかかりやすいといわれており12)、乾癬の中でもGPPは併発しやすいといわれています13)。症状としては、眼が充血している、眼が痛い、眼がかすむ、視力の低下などがあります14)。放置すると失明の恐れもありますので、これらの症状がみられたらすぐに眼科を受診しましょう。
ここまでご紹介したように、GPPでは早期の診断・治療が重要となります。 気になる症状がある方は一度皮膚科専門医にご相談ください。
参考文献
- 清水宏. あたらしい皮膚科学第3版. 東京: 中山書店; 2018.
- 難病情報センター. 膿疱性乾癬(汎発型)(指定難病37)https://www.nanbyou.or.jp/entry/313
- Kubota K, et al. BMJ Open. 2015; 5: e006450.
- 照井正, ほか. 臨床医薬. 2014; 30: 279-85.
- 山本俊幸 編. 乾癬・掌蹠膿疱症 病態の理解と治療最前線. 東京: 中山書店; 2020.
- 難病情報センター. 特定医療費(指定難病)受給者証所持者数. https://www.nanbyou.or.jp/entry/5354
- 日本皮膚科学会膿疱性乾癬(汎発型)診療ガイドライン作成委員会. 日皮会誌. 2015; 125: 2211-57.
- Kamiya K. et al. J Dermatol. 2023; 50: 3-11.
- Morita A, et al. JEADV Clinical Practice. 2023. Epub ahead of print.
- Choon SE, et al. Int J Dermatol. 2014; 53: 676-84.
- Umezawa Y, et al. Arch Dermatol Res. 2003; 295(Suppl 1): S43-S54.
- Egeberg A, et al. JAMA Dermatol. 2015; 151: 1200-5.
- 古江増隆 総編集:ここまでわかった乾癬の病態と治療. Ⅲ. 悪化誘因・合併症, 東京, 2012, 中山書店, 154-205.
- 日本眼科医会ホームページ:目についての健康情報-ぶどう膜炎.https://www.gankaikai.or.jp/health/21/index.html